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山口地方裁判所 平成6年(わ)51号 判決 1994年10月25日

本店所在地

山口県光市浅江七丁目五番三〇号

松栄産業株式会社

右代表者代表取締役

永松喜復こと朴喜復

国籍

韓国

住居

山口県光市虹ヶ浜六丁目一六番六号

会社員

永松昌泰こと朴昌用

西暦一九五八年三月一四日生

外国人登録番号〇八八一一一二三一号

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官玉置俊二出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人松栄産業株式会社を罰金八〇〇万円に、被告人永松昌泰こと朴昌用を懲役一年に、それぞれ処する。

被告人永松昌泰こと朴昌用に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人松栄産業株式会社(以下「被告会社」という。)は、山口県光市浅江七丁目五番三〇号に本店を置き、鋼材の加工及び販売等の事業を営むもの、被告人永松昌泰こと朴昌用(以下「被告人」という。)は、被告会社の取締役として被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外して所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二九三二万六四九五円で、これに対する法人税額が一〇三〇万一一〇〇円であったにもかかわらず、平成元年五月三一日山口県光市虹ヶ浜三丁目一〇番一号所在の所轄光税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二五七万一七五三円で、これに対する法人税額が三二六万四〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度の法人税額七〇三万七一〇〇円を免れ

第二  平成元年四月一日から同二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五四六九万一六三五円で、これに対する法人税額が二〇一四万三二〇〇円であったにもかかわらず、平成二年五月三一日、前記光税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二二二一万八七五八円で、これに対する法人税額が七一五万四〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度の法人税額一二九八万九二〇〇円を免れ

第三  平成二年四月一日から同三年三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五三六六万八八二〇円で、これに対する法人税額が一九三六万五五〇〇円であったにもかかわらず、平成三年五月三一日、前記光税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三〇六万〇七二三円で、これに対する法人税額が八五万六八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度の法人税額一八五〇万八七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  検察事務官作成の捜査報告書(二通)及び資料入手報告書

一  大蔵事務官作成の「製品売上高調査書」、「その他所得・製品売上高調査書」、「雑収入調査書」及び「その他所得・雑損失調査書」と題する各書面

一  貞木茂圀、山崎謙(四通)、児玉武久及び永松弘子(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  藤田節子、熊野宏一、野口浩、楠本幸雄及び藤井康太郎の検察官に対する各供述調書

一  平成六年二月二三日付け商業登記簿謄本

(法令の適用)

判示各所為は、各事業年度ごとに、被告人に対しては法人税法一五九条一項二項に該当し、被告会社に対しては同法一六四条一項、一五九条一項二項に該当するところ、被告人に対しては所定刑中懲役刑を選択し、被告人及び被告会社にとって以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人については同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年に処し、被告会社については同法四八条二項により、各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金八〇〇万円に処し、被告人に対しては、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告会社の常務取締役で、被告会社の業務全般を統括、管理していた被告人が、被告会社の売上げを除外する方法によって、総額約三八五〇万円の法人税を免れた脱税事犯であるが、当初は、経費として計上できない被告会社の取引先との多額の交際接待費を捻出する目的であったものの、いわゆる裏口座に振り込まれた売上除外金が多額になるにつれ、これを自宅の新築資金や自己及び家族のクレジットカードによる購入品の支払いにあて、さらに、高級外車を投機対象として、次々と購入するなどしたというもので、取引先の犠牲のもとに私利私欲に走っていたものであって、その動機に酌量の余地はない。

また、その犯行態様は、当初は、被告会社の取引先に依頼して、被告人個人名義の口座に売上除外分の金銭を振込送金させるといった脱税事犯としては比較的単純な方法によっていたものの、その後、架空名義の銀行口座を開設してその口座に振り込ませたり、直接現金で受け取るなど、次第に巧妙化しているばかりでなく、被告会社の取引先に対する優位な立場を利用して、多くの取引先に協力させ、これらの取引先は、立場上拒否することもできず、あるいは架空の取引を計上したり、あるいは経営者個人のポケットマネーを支出してまで協力させられていたものであって、私利私欲のために多くの人を事件に巻き込んだものであり、悪質であると言わなければならない。

さらに、本件脱税額は、三決算期間総計で三八五〇万円余りであるが、そのほ税率は通算して七七パーセントの高率にのぼっており、その結果は決して軽視することはできず、このような事犯が頻発することは、国民の税負担の不公平感をますます増大させ、ひいては納税意欲の減退を来すものであるから、その責任は重大であると言うべきである。

しかしながら、被告人の当初の動機は、被告会社の接待交際費を捻出することであって、全くの私利を図るために開始されたものではないこと、架空名義口座を使用したこと等を考慮してもこの種事犯としては、なお、比較的単純な犯行であること、被告会社が既に修正申告を行い、滞納税の支払いにつき広島国税局及び徳山県税事務所と協議して分割払いの約定を交わし、これに従って納付を実行していること、被告会社の経営状態が思わしくないものの、被告会社代表者が韓国の子会社を整理して被告会社の経営に専念できるようになったこと、大口債権者との協議により、被告会社の経理の適正化を図り再犯の防止に努力していること、被告人が被告会社の取締役を辞任しており、現在では反省の情を示していることなど、被告人及び被告会社にとって斟酌すべき事情も認められるので、これら諸般の事情を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(主席弁護人 越智博)

(裁判官 山藤茂生)

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